【室内での高齢者熱中症】を防ぐ、訪問リハビリで気をつけている4つのポイント
室内での熱中症を防ぐ4つの基本ステップ
訪問現場の実情と専門家解説に基づく対策
専門家解説:谷口 英喜 医師(済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/周術期支援センター長/栄養部部長)
はじめに
熱中症というと屋外で起こるイメージがありますが、実際には高齢者の熱中症は住居内で発生する割合が最も高いことが知られています。
訪問リハビリでも、
「エアコンは冷えるから嫌い。」
「のどが渇かないから水は飲まない。」
「暑いけど扇風機だけで十分。」
このようなお話を聞くことは少なくありません。
実際に訪問すると、室温が30℃近くあっても本人は暑さを自覚していないことや、エアコンのリモコンの電池切れに気付かず使えていなかったケースもありました。
医療法人久仁会 鳴門山上病院の石井英理氏らが2024年に発表した研究では、平均83.2歳の地域在住高齢者30名(徳島県鳴門市)を対象に訪問リハスタッフが室温調整へ介入したところ、夏季における室温・WBGT(暑さ指数)はともに介入前後で有意に低下(p<0.01)しました。また、この介入によりエアコンの使用率は雨季33.3%→夏季93.3%まで上昇したことも報告されています。
つまり、訪問リハビリでは運動だけではなく、室内環境を整えること自体が熱中症予防につながることが示されています。
今回は、私が実際に訪問現場で行っている内容と、公的ガイドラインや専門家の知見を交えながら、自宅で実践しやすい4つの対策をご紹介します。
1.エアコンによる正確な室温管理
訪問現場の実際
実際に訪問した高齢女性のお宅では、「エアコンの風や冷えが嫌い」という理由で電源をこまめにつけたり消したりされていました。設定温度は28℃にされているものの、「昔は窓を開けて風を通していれば十分気持ちよかったのよ」とお話しされることが多く見られます。またある時には、「クーラーが壊れた」とおっしゃっていたため様子を確認したところ、本体の故障ではなくリモコンの電池が切れていただけという事態も起きていました。
こうしたエピソードは、決して特殊な例ではないようです。先行研究では、「足元が寒くなる」などの理由でエアコンは身体に良くないと考える高齢者が53%にのぼるとされています。
実践のポイント
「設定温度」ではなく「実測室温」を基準にする
室温28℃以下を維持することが推奨されています。エアコンの設定温度を28℃にしていても、日照や建物の構造により実際の室温が上回ることがあるため、室内に温湿度計を設置し、「実際の室温が28℃以下」になっているか確認・維持することが重要です。
我慢せず早めの稼働を心掛ける
高齢者や要介護者は自宅内での熱中症発生リスクが高いことが示されています。暑さを感じにくくなっている場合も多いため、室温計を基準に早期稼働させることが推奨されます。
先述の研究でも、リハスタッフが室温を確認し、必要に応じてエアコンの使用を提案・調整することで、エアコン使用率が大きく向上し、実際に室温・WBGTの有意な低下につながったことが報告されています。
2.サーキュレーターを活用した「気流形成」
訪問現場の実際
ご自宅にサーキュレーターを所有しているご家庭はほとんどなく、空調設備はエアコンと昔ながらの扇風機のみというケースが一般的です。そのため、エアコンの冷気が足元だけに溜まって「体が冷えるから」とエアコンを消してしまい、部屋の上部に熱気がこもるという悪循環が目立っていました。
実践のポイント
エアコンの冷房効果を高め、体感を安全かつ効率的に下げる手法として、谷口英喜医師が提唱しているのが「気流形成」です。サーキュレーターがない場合は扇風機で代用することも可能です。
気流形成の考え方
風を直接身体に当てるのではなく、扇風機やサーキュレーターを用いて部屋全体の空気を循環させ、室内全体に穏やかな空気の流れ(風の道)を作る方法です。
具体的な方法
風を「壁」や「天井」に向けて送ることで、壁面に当たった風が拡散し、部屋全体を包み込む柔らかい気流が生まれます。これにより、足元に溜まりやすい冷気と天井付近の温気が撹拌され、室内の温度ムラが解消されると考えられています。
なお、体感温度がどの程度低下するかについての具体的な数値は、公開情報の中では確認できませんでした。この点は「効果が期待される」という表現にとどめ、断定は避けています。
3.時間管理による正しい水分・電解質補給
訪問現場の実際
水分補給の状況を確認すると、「喉が渇いたときだけ飲むようにしている」とおっしゃいますが、加齢により喉の渇き自体をあまり感じなくなっています。また、飲んでいる種類をお伺いすると基本的には温かいお茶や冷たいお茶が多く、水や電解質ドリンクを意識して摂る習慣はあまり見られませんでした。
実践のポイント
「喉が渇く前」に時間で管理して飲む
喉の渇きを覚えてから飲むのでは遅く、すでに軽度の脱水が始まっていることがあります。起床時、10時、昼食時、15時、入浴前後、就寝前など、時間を決めてコップ1杯(100〜200ml)の水分を摂る習慣をつくることが推奨されています。
発汗量に応じた使い分け
谷口英喜医師は「水分補給の基本は食事。普段の生活では、足りない分は水かお茶で補うだけで十分」と述べています。暑いときの目安として、1時間に100ミリリットル程度の水分摂取が挙げられています。
一方でスポーツドリンクについては、「服を取り換えたくなるぐらいの汗をかくかどうか」を目安に判断するとよいとされ、運動や屋外作業などで大量に発汗した場合には、塩分・糖分を補給できるスポーツドリンクが効果的とされています。
熱中症が疑われ脱水症状がある場合には、経口補水液の使用が適しています。経口補水液はスポーツドリンクに比べて塩分は約3倍、糖分はおよそ3分の1とされ、脱水時は1リットルを目安に、最初の500ミリリットルで不足分を補い、残りの500ミリリットルは時間をかけて飲むことがすすめられています。
清涼飲料水の摂り過ぎには注意が必要
一般的な500mLのスポーツドリンクには約25〜35g(角砂糖約7〜10個分)の糖質が含まれており、こうした飲料を大量に飲み続けることで血糖値が急上昇し、「ペットボトル症候群(清涼飲料水ケトーシス)」と呼ばれる状態を引き起こす恐れがあります。この症状は主に20〜30代の若い世代に多く見られるとされていますが、日常的な水分補給としてスポーツドリンクを飲み続けることは、年代を問わずおすすめできません。
高齢者については、のどの渇きを感じにくいことから、時間を決めて水分を摂る習慣づくりが特に重要とされています。
4.凍らせたペットボトル等を用いた物理的冷却
訪問現場の実際
エアコンでの全体冷房を嫌がる方に対しては、ピンポイントで身体を冷やす工夫が効果的です。訪問時に「部屋全体をこれ以上冷やしたくないけれど、少し熱っぽさがある」といった場面でも、身近にあるペットボトルを活用した冷却方法が非常に役立ちます。
実践のポイント
太い血管が通る部位を冷やす
体表面冷却の考え方に基づき、凍らせたペットボトルや保冷剤(タオルや手ぬぐいを巻いたもの)を以下の部位に当てることで、体温を効果的に下げることができます。
- 首の前後・左右
- 脇の下(腋窩部)
- 太もものつけ根(鼠径部)
手のひら冷却(AVA血管)という方法もある
谷口医師は、手のひらや足の裏にある動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう、AVA)という体温調整用の血管を冷やす方法も紹介しています。AVA血管は体温が上がると開通し、ここを冷やすことで全身のクールダウンにつながるとされています。
ただし、谷口医師はAVA血管の冷却について、15℃程度の「ひんやり感じる」水温が最適であり、氷水のような冷たすぎる温度は血管を収縮させてしまうため逆効果になると説明しています。具体的には、洗面器やバケツに張った水に手や足を5分ほどつける、あるいは流水で15秒ほど手のひらを冷やす方法が紹介されています。
そのため、凍らせたペットボトルのように0℃に近い低温のものを直接手のひらに当てて握る方法は、AVA血管の冷却としては推奨されていない点にご注意ください。首・脇・脚のつけ根など「太い血管を表面から冷やす」場合と、「AVA血管を程よい温度で冷やす」場合とでは、適した温度が異なります。いずれの方法でも、凍傷や皮膚トラブルを防ぐため、直接肌に長時間当て続けないよう注意が必要です。
まとめ
熱中症対策というと、水分補給ばかりが注目されます。
しかし実際の訪問現場では、
- 室温管理
- 気流づくり
- 時間を決めた水分補給
- 身体を効率よく冷やす工夫
この4つを組み合わせることが重要だと感じています。
また、訪問リハビリテーション研究の報告でも、訪問リハスタッフによる室温管理への介入によって、エアコン使用率が向上し、室温・WBGTが有意に改善することが示されています。
訪問リハビリは運動を行うだけではありません。生活環境を整え、ご本人やご家族と一緒に熱中症を予防することも大切な役割です。
暑い夏を安全に過ごすために、ぜひ今日から取り入れられることから始めてみてください。
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med-care-design 運営者
- 訪問リハビリテーション歴 10年以上
- 作業療法士(OT)
- 介護支援専門員(ケアマネジャー)
- 福祉住環境コーディネーター2級
- 現在は管理職として後進の指導にあたりながら、自身も臨床業務を継続中
延べ百件以上の患者様宅に訪問し、さまざまな場面を見てきました。患者様の生活する力を可能な限り伸ばすことを意識してリハビリテーションを行なっています。現場で得た気づきと、学会ガイドライン・専門医の解説・公的統計などの根拠を、必ず両方そろえて発信することを心がけています。
※本記事のうち「訪問現場の実際」は筆者自身の臨床経験に基づく内容、それ以外の医学的・制度的な内容は本文中に記載の学会・専門家・公的機関の情報を出典としています。
石井英理,藤本夏奈,直江貢,柳澤幸夫.訪問リハビリテーション時の室温調整介入が居室環境の変化に及ぼす影響.訪問リハビリテーション研究.2024;3./日本救急医学会熱中症に関する委員会.熱中症診療ガイドライン2015./環境省保健部環境安全課.熱中症環境保健マニュアル2022./厚生労働省「健康のため水を飲もう」推進運動./日本経済新聞(2026年7月23日)「スポドリで水分補給、逆効果かも?『ペットボトル症候群』に注意」/谷口英喜医師 監修・解説記事(東京すくすく「手のひら冷却で熱中症予防」、Forbes JAPAN「熱中症対策は『手のひら』の冷却」等)



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