多世代共生住宅 × 社会的孤立 × 訪問OT
多世代共生住宅「ノビシロハウス」に見る高齢者の住まいと社会とのつながり|訪問OTの視点
訪問リハビリテーションの視点から
1. 高齢者の一人暮らしと社会的孤立
日本では高齢化とともに、高齢者の一人暮らしも増えています。
内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、2024年10月時点の65歳以上人口は3,624万人、高齢化率は29.3%です。また、65歳以上の人口に占める一人暮らしの割合は、2020年時点で男性15.0%、女性22.1%でした。2050年には男性26.1%、女性29.3%まで上昇すると推計されています。
一人暮らしそのものが問題というわけではありません。しかし、身体機能の低下や外出機会の減少、友人・知人との関係の変化などによって、人との接点が少なくなることがあります。
WHOも、高齢者のおよそ4人に1人が社会的孤立の状態にあると推定しており、社会的孤立や孤独は高齢期の健康や精神的な健康に関わる重要な課題としています。
訪問リハビリの現場でも、
「以前より人と話す機会が減った」
「外出するのが大変になった」
「一緒に出かける人がいない」
といった話を伺うことがあります。
実際にあった例
ある利用者さんを担当していたときのことです。
近所のいきつけの八百屋に行ける程度の歩行能力は維持できていたのに、外出の頻度がどんどん減っていきました。理由を尋ねると、「買い物に行かなくなった」という答えが返ってきました。以前は近所の八百屋さんに顔なじみの店主がいて、そこでの立ち話が楽しみだったそうですが、お店が閉店してしまい、それ以降、歩く理由を失ってしまったのです。
このとき、いくら身体機能を維持しても、「歩く理由」がなければ生活の中で使われないのだと痛感しました。この経験が、私が「住まいと社会とのつながり」というテーマに関心を持つようになりました。
2. 身体機能だけではなく「住まいと社会活動」を考える
訪問リハビリでは、筋力や歩行能力、バランスなどの身体機能を評価します。しかし、歩行能力が維持されていても、「どこへ行くのか」「誰と会うのか」という目的がなければ、実際の生活で身体を動かす機会は少なくなります。
例えば、
- スーパーへ買い物に行く
- 近所の人と挨拶をする
- カフェへ立ち寄る
- 地域のイベントに参加する
といった活動には、身体機能だけではなく、「そこへ行きたいと思える環境」も関係します。
作業療法士の視点から言うと、私たちが評価しているのは「歩けるかどうか」だけではありません。「その人にとって意味のある活動を、生活の中でどれだけ続けられるか」という視点も重視します。歩行訓練で歩ける距離が伸びても、実生活でその力を使う場面がなければ、訓練の効果は生活の質にはつながりにくいというのが、現場で繰り返し感じました。
私は、リハビリのプランを立てるときに、身体機能の評価と同じくらいの時間をかけて、「この方にとって、また行きたいと思える場所はどこか」「また会いたいと思う人は誰か」をお聞きするようにしています。これは生活全体の活動量を左右する、重要な作業だと考えています。
つまり、リハビリを「身体を変えること」だけで考えるのではなく、身体機能を使いたくなる環境をつくることも重要です。その意味で、「住まい」は単なる生活の場所ではなく、社会活動のきっかけを生み出す環境として考えることができると考えています。
3. 多世代共生住宅「ノビシロハウス」とは
こうした「住まいと社会とのつながり」を考えるうえで、一つの事例として紹介したいのが、株式会社ノビシロが展開する「ノビシロハウス」です。
ノビシロハウス亀井野は、神奈川県藤沢市にある多世代型のコミュニティ集合住宅です。国土交通省の資料によると、2021年3月から取り組みが始まり、8戸の住宅にカフェやコインランドリーなどを併設しています。2024年10月時点では70~90代の高齢者5名と大学生2名が入居しているようです。
特徴的なのが、若い世代の入居者が高齢者への日々の声かけや月1回のお茶会参加などを担う仕組みです。入居者同士のコミュニケーションによる自然な見守りも行われています。
さらに、高齢者がコインランドリーの清掃やカフェで販売するコーヒー豆のラベル貼りなど、有償ボランティアとして活動する機会も設けられています。
これは単に「高齢者を見守る」という仕組みではありません。高齢者自身も地域の中で役割を持てるようにする。そこに、この住宅の特徴があります。
私は、ノビシロハウスは介護施設そのものではなく、住宅を基本とした取り組みであり、生活の中の人とのつながりを通して活動・楽しみなどを見出すことが出来ると思いました。
4. 訪問OTとして感じること
このニュースを最初に知ったとき、率直に「面白い取組だなあ」と感じました。私が担当している利用者さんの多くは、家族と同居していても日中は一人になる時間が長く、外部との接点をつくることはなかなか難しいと感じています。また、過去には地域付き合いもあった方も高齢化に伴い、顔を合わせることが減少し、付き合いも少なくなってしまうケースを多く見かけます。
そういった中で、世代を超えて、日々かかわる関係があることで日常的な楽しみを見つけたり、安心を得ることが出来たり、逆に他者に与える役割を担ったり相互的な関係性が作られる可能性があると思いました。
5. 訪問OTが考える「社会とのつながり」
では、訪問リハビリでは何ができるのでしょうか。
私は、社会とのつながりを「日常的な活動」として考えることが大切だと考えています。
①地域のイベントを伝える
地域のお祭りや季節のイベントなど、本人が興味を持ちそうな情報を伝えます。以前、盆踊りの情報をお伝えしたところ、車椅子でも参加できる形で見に行かれた利用者さんがいました。「懐かしいね。昔はよく踊ったもんだよ。また、来年も来れたらいいね」という言葉が、その後の生活やリハビリの意欲にもつながったのを覚えています。
②身体状況に合わせて散歩コースを考える
「何分歩けるか」「体力がどのくらいあるか」だけではなく、途中で休める場所や、立ち寄れる店舗なども含めてコースを考えます。ベンチのある場所や日陰の多いルートを一緒に確認しておくと、ご本人が一人で外出するときの安心材料にもなります。
③スーパーやコンビニなどで顔なじみをつくる
買い物を単なる「用事」として終わらせず、店員さんとの挨拶など、日常的な交流につなげていきます。冒頭で紹介した利用者さんのケースでは、別のコンビニで店員さんと顔なじみになったことをきっかけに、少しずつ外出頻度が戻っていきました。歩行能力そのものは変わっていませんが、「行く理由」ができたことで生活が変わった、印象的な例です。
大切なのは、
「もっと外出しましょう」
と促すことだけではありません。「また行きたい」と思える場所や、「また会いたい」と思える人を生活の中につくることです。こうした環境があれば、歩行や立位などの身体機能も、生活の中で使う機会が生まれます。
まとめ|住まいそのものを社会とのつながりのきっかけとして考える
高齢者の一人暮らしが増える中で、介護予防を「運動」だけで考えることには限界があります。
大切なのは、
「歩けるか」だけではなく、
「どこへ行くのか」
「誰と会うのか」
「何をするのか」
「どんな役割があるのか」
という視点です。
内閣府の「安心・つながりプロジェクトチーム」でも、地域の日常生活動線上に居場所をつくり、自然と人が集まる工夫や、当事者に「役割」や「出番」をつくることの重要性が示されています。
ノビシロハウスは、その考え方を住まいの中に取り入れた一つの事例です。多世代で暮らし、自然な声かけが生まれ、交流できる場所が身近にあるという環境は、高齢者の社会とのつながりを考えるうえで興味深いモデルです。
訪問OTとしても、
「どんな家で暮らしているのか」
「誰と関わっているのか」
「外出する理由があるのか」
「生活の中に役割があるのか」
という視点を持つことが重要だと考えています。
人を変えるリハビリだけではなく、暮らす環境を考えるリハビリへ。高齢者が住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けるために、住まいそのものを社会とのつながりのきっかけとして考えることも、これからの在宅ケアに必要な視点なのかもしれません。
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※本記事のうち「実際にあった例」「訪問OTとして感じること」に関する記述は筆者自身の臨床経験に基づく内容(プライバシー保護のため details は一般化・匿名化しています)、それ以外の統計・制度・事例に関する内容は本文中に記載の公的機関の情報を出典としています。
出典・参考文献
- 内閣府『令和7年版高齢社会白書(全体版)』(高齢化率、65歳以上の一人暮らしの現状・将来推計など)
- WHO「Social isolation and loneliness among older people」(高齢者の社会的孤立に関する国際的なデータ)
- 内閣府「安心・つながりプロジェクトチーム」(単身高齢者の孤独・孤立予防、居場所・つながりづくりに関する政策資料。取りまとめ報告書はこちら)
- 国土交通政策研究所「ミクストコミュニティの形成に向けた都市の再構築の手法に関する調査研究」(2025年6月4日 研究発表会資料)(ノビシロハウス亀井野の住宅戸数、入居状況、若者による声かけ・お茶会、見守り、有償ボランティア等の具体的な取り組み)
- 国土交通省「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等」(高齢者の入居に対する賃貸人の拒否感や、入居制限の理由に関する資料)


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