夏、外出が減る時期の過ごし方

 

在宅リハビリ × 健康・経済

夏、外出が減る時期の過ごし方
秋に「ふらつく・疲れる」を防ぐ自宅での準備

alt="夏のカレンダーが掛かった室内で、シニアが廊下の手すりにつかまりながら安全にバランス運動を行っている穏やかな水彩画"

訪問リハビリテーションの視点から

「外に出る機会が減って、運動不足になっています」

訪問リハビリの現場では、夏になると次のような声を聞くことがあります。

「暑くて散歩に行けないので、運動不足になっています」

「以前は毎日歩いていましたが、最近は外に出ていません」

「自宅で過ごす時間が増えて、座っているか、寝ていることが多くなりました」

近年の夏は厳しい暑さになる日も多く、特に高齢者や持病のある方が、気温の高い時間帯に無理をして外出する必要はありません。熱中症や脱水のリスクを考えれば、暑い時間帯の外出を控えることは適切な判断です。

しかし、ここで注意したいのは、外出を控えることと、一日中ほとんど身体を動かさないことは同じではないということです。

外出する機会が減った結果、自宅で座っている時間や横になっている時間が増えることがあります。すると、

外出の機会が減る → 自宅で過ごす時間が増える → 座る・横になる時間が増える → 1日の活動量が減少する

という変化が起こる可能性があります。そして、夏の暑さが落ち着き、再び外を歩く練習を始めたとき、

「以前よりふらつくようになった」

「少し歩いただけで疲れる」

「前は歩けた距離なのに、休憩が必要になった」

と感じる方もいます。

もちろん、こうした変化がすべて夏の活動量低下によって起こるわけではありません。疾患の進行、加齢、痛み、睡眠、栄養状態など、さまざまな要因が関係します。しかし、夏の間に外出や歩行の機会が減り、座っている時間や横になっている時間が増えたことが、身体機能の低下に影響している可能性は考えられます。

夏は本当に活動量が減るのか?

ここは、少し注意が必要です。夏になると、すべての人の活動量が減るとは言い切れません。

季節と身体活動の関係を調べた研究では、地域の気候や気温によって傾向が異なることが指摘されています。暑さの厳しい地域では、夏に屋外活動が制限され、身体活動量が低下する可能性がある一方、涼しい地域では夏の方が活動量が多い場合もあります。

つまり、夏だから、すべての人の活動量が減るということではありません。重要なのは、普段外出や散歩をしている人が、猛暑によって外出を長期間控えた場合、その人の生活全体の活動量が減少する可能性があるということです。

暑さによって外出が難しくなる人にとっては、外出の代わりに何をするかが重要になります。

自宅で過ごす時間が増えると、座っている時間も増えやすい

高齢者を対象とした研究の中には、起きている時間の大部分を座位行動が占めることを報告しているものがあります。もちろん、こうした数値がすべての人にそのまま当てはまるわけではありません。しかし、少し外出しなくなったという変化が、実際には一日の多くの時間を座って過ごす生活につながる可能性があることを示しています。

身体活動の強度は「メッツ(METs)」という単位で表されます。安静に座っている状態を1.0メッツとして、その活動が何倍のエネルギーを消費するかを示す指標です。厚生労働省の資料をもとに、日常のいくつかの動作を整理すると、次のようになります。

動作・状態 メッツ 座位との比較
座位安静(座って静かにしている) 1.0 基準
立位(会話、電話、読書など) 1.8 約1.8倍
洗濯物を干す・たたむ、掃除機をかける 2.0〜3.3 約2〜3.3倍
台所の手伝い、普通歩行(67m/分) 3.0 約3倍
階段を上る 4.0 約4倍

出典:厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」/厚生労働省 e-ヘルスネット「メッツ/METs」

座りっぱなしの状態から立ち上がるだけでも、エネルギー消費は約1.8倍になります。歩く動作まで含めれば、座っている状態のおよそ3倍です。「椅子から立ち上がる」「自宅の中を歩く」「洗濯物をたたむ」といった何気ない動作も、こうした数値で見ると、座り続けることとは明確に異なる負荷を身体にかけていることが分かります。

例えば、以前は外出していた時間に、テレビを見る、ソファに座る、ベッドで横になる、そのまま昼寝をする、という生活に変わることがあります。

一回外出を休んだだけなら、大きな問題にはならないかもしれません。しかし、その状態が何週間も続くと、日常生活全体の活動量が低下する可能性があります。

alt="水彩画風で描かれた、緑とオレンジの木々が美しい秋口の公園の風景"

夏の間の変化は、秋になってから気づくことがある

訪問リハビリでは、夏の暑さが落ち着いた頃に、屋外歩行を再開することがあります。その際に、歩行速度が遅くなった、以前よりふらつく、方向転換が不安定になった、少し歩いただけで疲れる、休憩を必要とするようになった、外を歩くことに不安を感じる、といった変化が見られることがあります。

もちろん、これらは医学的に夏に動かなかったことだけが原因だと断定できるものではありません。しかし、身体は使わない機能を維持することが苦手です。特に高齢者の場合、外出や歩行の機会が減ると、歩くために必要な筋力だけでなく、

  • 立ち上がる力
  • 立った姿勢を維持する能力
  • 方向転換する能力
  • 段差に対応する能力
  • 長時間歩き続ける持久力

なども使う機会が減ります。そのため、夏の間に外を歩けない場合でも、自宅でこれらの機能を維持することが重要になります。

「外出できないから何もしない」ではなく、自宅でできる活動に切り替える

暑さが厳しい日に、無理に外を歩く必要はありません。重要なのは、外出できない日にも、可能な範囲で身体活動を維持することです。例えば、

  • 自宅の中をこまめに歩く
  • 椅子から立ち上がる
  • 洗濯物をたたむ
  • 食器を片付ける
  • 掃除をする
  • 座っている時間を途中で中断する
  • 安全を確保して立位練習を行う

身体活動は、必ずしも30分間の運動のような形でなければならないわけではありません。日常生活の中で、座り続ける時間を減らし、立つ・歩く機会を増やすことも身体活動の一部です。

訪問リハビリでは「椅子・手すり・壁」を活用する

夏場の訪問リハビリでは、屋外歩行ではなく、自宅で身体機能を維持することを重視する場合があります。例えば、利用者の状態に応じて、

椅子
椅子からの立ち上がりを利用して、下肢の筋力や立ち上がり動作を練習します。立ち上がりは、トイレや食事、ベッドからの移動など、多くの日常生活動作に関係します。

手すり
安全を確保しながら、立位保持や足の運び、方向転換などを練習します。屋外歩行では、段差や路面の凹凸への対応が必要になるため、単純な筋力だけでなく、バランス能力も重要です。


壁を支持物として利用し、姿勢保持や立位での運動を行うことがあります。

ただし、具体的な運動内容は、疾患や転倒リスク、体力によって異なります。高齢者だからこの運動という一律の方法ではなく、その人が秋以降にどのような生活を送りたいのかを考えた上で、必要な身体機能を維持することが重要です。

健康に対するロゴのイラスト

歩くことは身体だけでなく、健康を維持する「健康貯金」になる

2026年7月18日付の日本経済新聞朝刊では、生活習慣の改善によって医療費を抑制している自治体の取り組みが紹介されていました。

厚生労働省のレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を基に日本生命保険が、人口1万人以上の1,205市区町村について、2023年度時点の住民1人当たり医療費を集計し、各自治体の性別・年齢構成を同じ条件にそろえた全国値に対する抑制率を算出したところ、岩手県金ケ崎町など10市町が全国比で3割超低いという結果が出ています。

都道府県別で最も抑制していたのは岩手県で、住民1人当たり医療費は年間34万2,314円と全国比73.5%でした。岩手県内の自治体は市区町村別のトップ10のうち6つを占めています。

中でも金ケ崎町は、住民1人当たり医療費が28万1,545円で全国比63.5%と、県内でも際立って低い数字でした。この町では、地方創生推進交付金を原資に、住民の運動習慣に応じて商品券と交換できるポイントを付与する「健幸ポイント事業」に取り組んでいます。

健幸ポイント事業の仕組み 75歳以上であれば1日7,000歩以上で15ポイント、1か月間の平均が1日9,000歩を上回ると追加で400ポイントが付与されます。年度内継続すると、食品スーパーなどで使える最大4,000円分の商品券と、1ポイント1円相当で引き換えられます。

2021年度に事業を始め、住民の約1割にあたる約1,500人が利用しました。医療費は事業開始前と比べて年間約1億2,000万円減少したと報じられています。国からの支援は2026年度でなくなりましたが、町単独で約1,000万円の予算を確保し、事業を継続しているとのことです。

ただし、ここで注意したいのは、この事業によって医療費が減少したと単純に因果関係を断定することはできないという点です。医療費は、年齢構成、所得、医療機関へのアクセス、疾病構造など、さまざまな要因の影響を受けます。記事内でも、慶応義塾大学の研究者が、医療費の水準が低い自治体では、がん検診の受診率が高いなど、住民が意欲的に健康を追求している傾向があると指摘しています。

それでも、運動習慣や食生活の改善を自治体が支援し、住民の健康行動を後押しする取り組みが行われていることは注目されます。歩くことですべての病気を防げる、という話ではありません。しかし、日常的な身体活動を維持することは、身体機能や生活機能を保つための重要な要素です。

夏の間、外出を控えて活動量が落ちてしまうことと、こうした自治体の取り組みが目指す方向は、実は根っこでつながっています。日々のわずかな歩数の積み重ねが、身体機能だけでなく、長期的には医療費という形にも表れてくる可能性がある、ということです。

出典:日本経済新聞 朝刊「生活改善で医療費抑制 岩手・金ケ崎は歩数×商品券で効果 10市町、3割超低く」2026/07/18

夏の目標は「毎日外出する」ではなく、「活動量をゼロにしない」

暑い日に無理をして外を歩く必要はありません。一方で、外に出られない → 何もしない → 一日中座る・横になる、という状態が長く続くことには注意が必要です。夏の間は、外出が難しいなら、自宅で何ができるかという考え方が大切です。

  • 朝夕の涼しい時間帯だけ短時間歩く
  • 暑い日は自宅の中を歩く
  • 座っている時間をこまめに中断する
  • 家事をできる範囲で行う
  • 椅子からの立ち上がりを取り入れる
  • 必要に応じて訪問リハビリで身体機能を確認する

もちろん、運動の内容や量は、個人の体力や疾患によって異なります。特に、ふらつきがある方や転倒歴のある方は、安全性を優先する必要があります。

alt="明るい室内で、笑顔の高齢女性が木製の椅子から立ち上がるリハビリスタッフがサポートしている温かみのある水彩画"

まとめ:夏に大切なのは「外出すること」だけではない

夏に外出する機会が減ること自体は、必ずしも問題ではありません。猛暑の中で外出を控えることは、熱中症予防のために必要な場合があります。

しかし、外出を控えた結果、自宅で座っている時間や横になっている時間が増え、生活全体の活動量が低下することがあります。訪問リハビリの現場では、夏が明けて屋外歩行を再開した際に、「以前よりふらつく」「疲れやすくなった」と感じる方もいます。その原因は一つではありませんが、夏の間に身体を動かす機会が減ったことも、考慮すべき要因の一つです。

夏の過ごし方は、外出するか、何もしないかの二択ではありません。外出できない日には、自宅で立つ、歩く、家事をする、座り続ける時間を減らすなど、できる範囲で身体を動かすことができます。

夏の間に無理なく身体活動を維持することは、秋以降の外出や散歩を再開するための準備にもなります。秋にまた自分の足で歩くために、夏は休む季節ではなく、方法を変えて身体を動かす季節と考えてみてはいかがでしょうか。

参考情報:日本経済新聞 朝刊「生活改善で医療費抑制 岩手・金ケ崎は歩数×商品券で効果 10市町、3割超低く」(2026年7月18日)/厚生労働省「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)」/厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」/厚生労働省 e-ヘルスネット「メッツ/METs」/厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」

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