イオンが介護事業を3倍に拡大する理由とは?
データから読み解く【買い物リハビリ】の可能性
はじめに
こんにちは。
今回は、日本経済新聞や業界紙で報じられている、イオンリテールが展開する介護事業「イオンスマイル」の急拡大について取り上げます。イオンスマイルは2025年10月時点で22事業所、2027年度には40事業所、そして2030年度には75店舗体制を目指しているとされています。
「なぜスーパーを運営するイオンが、ここまで介護事業へ力を入れるのか?」
その背景には、企業戦略だけではなく、日本の急速な高齢化や介護保険制度の方向性があります。本記事では、公的データと現場経験をもとに、その理由を解説します。
イオンスマイルとは
イオンスマイルは、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)などの専門職が在籍し、機能訓練だけでなく、実際のスーパーで買い物を行う「買い物リハビリ」を取り入れているデイサービスです。2013年9月にイオン葛西店へ初出店して以来、店舗数を伸ばしてきました。
「買い物リハビリ」は通常の機能訓練を終えた後、希望者がスタッフとともに行うプログラムで、利用者3人に対しスタッフ1人が付き添う体制が基本とされています。商品を選び、カゴに入れ、会計をするという一連の動作は、すべて利用者自身が行います。歩行訓練だけではなく、「商品を選ぶ」「レジで支払う」「荷物を持って帰る」といった生活そのものをリハビリに取り入れている点が特徴です。
「マシンで数値が改善しても、それがゴールではない。リハビリで良くなった体を使って、実際に買い物ができたという成功体験こそが自信と次への意欲になる」
POINT1:最も人数が多い「軽度高齢者」へのアプローチ
厚生労働省の「介護保険事業状況報告」によると、2023年度末(令和6年3月末)時点の要支援・要介護認定者数は約708万人に達しています。
その中でも、要支援1・2、要介護1・2といった比較的軽度の利用者は大きな割合を占めています。
この層は、「まだ自分で買い物へ行きたい」「できるだけ自宅で生活を続けたい」という希望を持つ方が多く、自立支援の効果も期待しやすい年代です。
つまりイオンスマイルは、「介護が重くなってから支える」のではなく、「元気なうちに生活機能を維持する」という国の方向性と一致したサービスと言えます。
POINT2:国が進める「自立支援型介護」と一致
近年の介護報酬改定では、「どれだけ介護を提供したか」ではなく、「どれだけ利用者の状態が改善したか」を評価する制度へ移行しています。
代表的なのが、LIFE(科学的介護情報システム)やADL維持等加算です。
これらは、歩行能力だけではなく、食事・排泄・入浴・買い物などの日常生活能力の維持・改善を重視しています。
実際の店舗で買い物を行うイオンスマイルの取り組みは、この制度の考え方と非常に親和性が高いと考えられます。
POINT3:買い物は「IADL」を高める実践的なリハビリ
買い物は単に歩くだけではありません。
- 商品を探す
- 値段を比較する
- 商品を手に取る
- 買い物かごを持つ
- レジで支払う
- 荷物を持って帰宅する
この一連の流れには、歩行能力だけでなく、注意力、判断力、記憶力、上肢機能、バランス能力など、さまざまな能力が必要になります。
作業療法では、このような買い物はIADL(手段的日常生活動作)の代表的な活動として位置付けられており、自宅での生活を続けるために重要な能力の一つです。
イオンが新潟へ出店した際のプレスリリースでも、車の移動手段を失うと生活範囲が狭まり、高齢者が「買物不便」や「社会的孤立」といった課題に直面しやすいことが、出店の背景として挙げられています。買い物リハビリは、身体機能の向上だけでなく、こうした地域課題への対応という側面も持っていると言えそうです。
POINT4:スーパーという場だからこそ参加しやすい人もいる
一般的なデイサービスでは、参加をためらう方も少なくありません。特に男性は、施設に通うこと自体に抵抗を感じるケースがあるとしばしば指摘されます。
その点、「買い物へ行く」という目的は年齢や性別を問わず日常的な行為であり、運動だけでなく外出のきっかけにもなりやすいという特徴があります。
スーパーという身近な場所だからこそ、介護施設へ通うことに抵抗のある方でも参加しやすい、という側面があるのかもしれません。
【現場で感じること】
私自身、10年以上訪問リハビリテーションに携わる中で、「家の中では歩けるのに、スーパーへ行くと不安になる」という利用者様を何名も担当してきました。
実際の店舗では、人混みを避けながら歩き、商品を選び、かごを持って移動し、会計を済ませ、荷物を持って帰宅するまで、多くの動作が求められます。
また、買い物は身体機能だけではなく、社会参加という意味でも大きな役割があります。店員さんとの何気ない会話が生まれ、「今日は何を買おうかな」と商品を選ぶ時間そのものを楽しみにされている利用者様も少なくありません。
実際に「自分で好きな物を選べるのが一番嬉しい」「また来週も買い物へ行きたい」という声を聞くことも多くありました。
買い物は単なる生活動作ではなく、「自分で決める」「人と関わる」「楽しみを持つ」という生活の質(QOL)にもつながる活動だと日々感じています。
まとめ
イオンスマイルの拡大は、単なる企業の新規事業ではありません。
日本の高齢化、自立支援を重視する介護保険制度、そして地域で暮らし続けることを支える社会の流れが重なった結果だと考えられます。
病院から地域へ、治療から生活へという流れは今後さらに加速するでしょう。
私たちPT・OT・看護師などの専門職にも、「機能を回復させる」だけではなく、「生活そのものを支える」視点がますます求められる時代になっていくのではないでしょうか。
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med-care-design 運営者
- 訪問リハビリテーション歴 10年以上
- 作業療法士(OT)
- 介護支援専門員(ケアマネジャー)
- 福祉住環境コーディネーター2級
- 現在は管理職として後進の指導にあたりながら、自身も臨床業務を継続中
延べ百件以上の患者様宅に訪問し、さまざまな場面を見てきました。患者様の生活する力を可能な限り伸ばすことを意識してリハビリテーションを行なっています。現場で得た気づきと、学会ガイドライン・専門医の解説・公的統計などの根拠を、必ず両方そろえて発信することを心がけています。
※本記事のうち「訪問現場の実際」「現場で感じること」は筆者自身の臨床経験に基づく内容、それ以外の統計・制度に関する内容は本文中に記載の公的機関・報道機関の情報を出典としています。
日本経済新聞「イオンのデイサービス、2030年度に3倍の75カ所へ リハビリで買い物」/シルバー産業新聞「リハビリ型デイ『イオンスマイル』 商業施設の基盤活用し、出店加速」(2025年10月時点で計22事業所、2027年度に40事業所目標)/ダイヤモンド・チェーンストアオンライン「イオンリテール、デイサービス『イオンスマイル浜松葵店』を静岡県に初出店」(2030年までに75店舗体制の目標に言及)/イオンリテール株式会社プレスリリース「イオンリテール、介護予防・リハビリのデイサービス『イオンスマイル新潟東店/新潟西店』をオープン」/厚生労働省「介護保険事業状況報告(年報)」令和5年度版(要介護・要支援認定者数 約708万人)/厚生労働省「令和6年度介護報酬改定関連資料」(LIFE・ADL維持等加算)/内閣府「令和7年版高齢社会白書」


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