【市場急拡大】リカバリーウェアは本当に効果がある?訪問リハビリスタッフがデータ・経験から検証
【市場急拡大】リカバリーウェアは本当に効果がある?
訪問リハビリスタッフがデータ・経験から考えてみた
結論
最近、利用者さんやご家族から、
と相談を受けることが増えました。テレビCMやSNSでも目にする機会が多く、着るだけで疲労回復、血行促進という言葉に興味を持つ方も少なくありません。
実は私自身も興味があり、リカバリータイツとリカバリーパンツを購入して使用しています。率直な感想は、
私は明らかな変化は感じませんでした。
もちろん、これはあくまで一個人の感想です。だからこそ今回は、個人の体験ではなく、制度や論文、公的資料をもとに、現時点で何が分かっていて、何がまだ分かっていないのかを整理してみます。
記事の概要:届け出は2年で30倍に、市場規模は5年で9倍の見通し
2026年6月11日付の日本経済新聞では、リカバリーウェア市場の急拡大が報じられていました。
日本ホームヘルス機器協会によると、一般医療機器としての届け出は、2024年初めには6件だったものが、2026年3月には180件まで増加しています。それだけ多くの企業がこの分野に本格的に取り組み始めているということです。
市場規模についても、日本能率協会総合研究所の調査で、2024年に189億円だった市場が、2027年には1,100億円、2030年には1,700億円まで拡大すると予測されています。
背景には、2022年に家庭用遠赤外線血行促進用衣として一般医療機器の対象になったことがあります。家庭用医療機器で新たなカテゴリーができるのは42年ぶりとのことで、国の制度に位置づけられたことが、企業にとって新しい挑戦のきっかけになったと考えられます。従来の専門企業だけでなく、イオンリテールや宝島社など異業種からの参入も相次いでおり、健康意識の高まりに応えようとする業界全体の動きがうかがえます。
出典:日本経済新聞 朝刊「健康意識高まる現代人 リカバリーウエアに2万円、企業相次ぎ参入 効果の裏付け欠かせず」2026/06/11
一般医療機器と書いてあるけど、どんな基準で認められているの?
多くのリカバリーウェアには、一般医療機器(家庭用遠赤外線血行促進用衣)という表示があります。これは、業界団体が定めた自主基準を厚生労働省が確認したうえで運用されている、れっきとした制度に基づく表示です。
一般医療機器(クラスⅠ)は、医療機器の中でも人体へのリスクが最も低いとされる区分です。医薬品のように個々の製品ごとに厳格な審査を経る仕組みとは異なり、届け出制という形が取られています。
届け出にあたっては、業界の自主基準でいくつかの要件が定められています。複数ありますが、特に重要だと感じるものは次の3つです。
1. 赤外線を放射する機能があること
生地に鉱物などによる特殊な加工が施され、体の熱を吸収して一定量の遠赤外線として放出する必要があります。基準では、加工していない布と比べて放射する赤外線の量が5%以上多いことが求められています。
2. 着用時の血流量増加を試験で確認すること
着用前後で皮膚の血流量を測定し、未加工の衣類と比べて5%以上増えることを確認します。この試験は医師や専門の技師が担当することとされており、対象者の人数や試験環境まで細かく手順が定められています。
3. 安全性が確認されていること
肌に触れる素材について、皮膚への刺激やアレルギーの原因にならないかを調べる試験を行う必要があります。
こうした要件が定められていること自体、業界として一定の品質と根拠を大切にしている表れだと感じます。一方で、基準そのものの中にも、血流量が5%増加したという結果だけでは、疲労回復や肩こり改善といった症状の改善を証明したことにはならないという考え方が明記されています。これは業界団体自身が、消費者に対して誠実に情報を伝えようとしている証でもあります。
出典:一般社団法人日本医療機器工業会「家庭用遠赤外線血行促進用衣自主基準」(令和4年10月14日厚生労働省事務連絡)
血流5%増加は何を意味するのか
先述の通り、血流量の試験では、未加工品と比べて5%以上の増加があるかどうかが判定基準になっています。
この5%という数字は、あくまで衣類が身体に一定の生理学的な影響を与えていることを示すものです。ただし、疲労回復・痛みの改善・歩行能力の改善といった、より具体的な効果まで証明するものではないという点は、自主基準自体にも明記されている通りです。
つまり、血流が少し増えることと、身体機能が改善することは、分けて考える必要があるということです。
運動と比較するとどうなの?
5%という数字だけを見ると、大きな変化に感じるかもしれません。しかし、ここで測定しているのは皮膚表面の血流です。
もちろん、皮膚血流と筋肉への血流は測定部位が異なるため単純比較はできません。それでも、身体を動かすことが体に与える刺激の大きさを考えると、毎日の運動が健康維持に重要であることは、多くの研究が支持しています。リカバリーウェアと運動は、対立するものではなく、目的の異なる別のアプローチとして捉えるとよいかもしれません。
論文では何が分かっている?
2021年に発表されたシステマティックレビューでは、遠赤外線素材を使用したウェアに関する複数の研究が解析されました。その結果、
- 疲労感の軽減
- 末梢血流改善の可能性
- 筋肉への酸素供給改善の可能性
が示されました。一方で、
- 対象者が少ない
- 若年者やアスリートが中心
- 結果にばらつきがある
などの課題も指摘されています。現時点では、効果がある可能性はあるが、さらなる研究の積み重ねが期待される段階、というのが最も妥当な受け止め方だと思います。
また、高齢者を対象に、歩行能力・筋力・転倒予防などを改善することを示した質の高い研究は、まだ十分ではありません。今後、企業や研究機関によるエビデンスの蓄積が進むことを期待したい分野です。
訪問リハビリスタッフとして思うこと
利用者さんから買った方がいいですかと聞かれた場合、私は過度な期待はしない方が良いと思いますとお伝えしています。
もし、着心地が良い、よく眠れた気がする、身体が温まる感じがする、のであれば、生活の質を高めるアイテムとして選ぶ価値は十分にあります。実際、快適性やリラックス効果を求めて使う分には、良い選択肢の一つだと思います。
一方で、これを着れば歩けるようになる、筋力がつく、痛みが改善するという効果まで期待するのであれば、私はまず、
- 毎日の散歩
- 椅子からの立ち上がり運動
- バランス練習
- 十分な睡眠
- バランスの良い食事
をおすすめします。これらは、多くの研究で身体機能の維持・改善に効果があることが示されています。
まとめ
リカバリーウェアは、全く効果がないとも、誰にでも明確な効果があるとも言えません。
市場は2024年の189億円から2030年には1,700億円へと急速に拡大しており、多くの企業が品質や透明性の向上に取り組んでいます。現時点の科学的根拠を見る限り、期待できる効果は疲労感や快適性など限定的であり、歩行能力や筋力、転倒予防まで裏付ける十分なエビデンスは、今後の研究の蓄積が待たれるところです。
私自身も使用していますが、劇的な変化は感じませんでした。それでも、着心地や温かさといった快適性には価値を感じています。
だからこそ、リカバリーウェアは健康を支える一つの選択肢として上手に取り入れつつ、基本となる運動・睡眠・栄養を大切にすることが、長期的な健康維持につながると考えています。



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