【認知症ケアの最前線】認知症治療の通院負担が変わる?訪問リハ職が解説

 

在宅医療 × 認知症ケア

【レカネマブ皮下注射で在宅生活はどう変わる?】
通院負担の軽減と

これからの認知症治療

訪問リハビリテーションの視点から           高齢者を中心とした家族が笑っているイラスト
※本記事は2026年7月に米国FDA(食品医薬品局)が承認した内容をもとに執筆しています。日本では皮下注射製剤は2025年11月に承認申請されていますが、本記事執筆時点では未承認です。今後の審査結果によって導入時期や運用方法は変わる可能性があります。

結論

2026年7月14日、エーザイと米バイオジェンは、アルツハイマー病治療薬レカネマブ(製品名:レケンビ)の皮下注射製剤について、米国FDAから治療開始時から使用できる承認を取得したと発表しました。

実は、皮下注射タイプのレカネマブ(レケンビアイクリック)自体は、治療開始から1年半が経過した維持療法段階の患者を対象に、すでに米国で販売されていました。今回の承認は、この皮下注射タイプを治療を始めたばかりの人にも使えるように対象を広げたという点が核心です。米国では2026年8月下旬に発売される予定です。

今回のニュースで注目したいのは、点滴が注射になったということだけではありません。通院にかかる時間や負担が軽減されることで、患者さんやご家族の在宅生活に新たな選択肢が生まれる可能性があります。

訪問リハビリスタッフの立場から、公表されているデータや臨床試験の結果をもとに、この承認が在宅生活へどのような影響を与えるのかを考えてみます。

レカネマブとは

レカネマブは、アルツハイマー病の原因の一つと考えられているアミロイドβに結合し、その除去を促す抗体医薬です。米国や日本、中国、韓国、欧州連合(EU)など53の国・地域で承認を取得しており、国際的にも広く使われ始めている薬です。

国際共同第Ⅲ相試験「Clarity AD試験」では、

  • 認知機能低下を27%抑制
  • 日常生活能力(ADCS MCI-ADL)の低下を37%抑制

することが報告されています。

一方で、認知症を治す薬ではなく、病気の進行を遅らせることを目的とした治療薬であることも理解しておく必要があります。

点滴から皮下注射へ何が変わるのか

これまで治療開始時は、医療機関で静脈点滴(IV)を受ける必要がありました。今回対象が拡大された皮下注射(SC)では、自宅で患者本人や家族が投与できるようになります。

項目 静脈点滴 皮下注射
投与場所 医療機関 自宅
投与時間 約60分 約15秒×2回
投与者 医療従事者 本人・家族
全身性投与反応 26% 1%

また、エーザイが実施した、実際の患者・介護者が使いこなせるかを検証する試験(Human Factors試験)では、

  • 患者・介護者による投与成功率95%
  • 94%以上が「使いやすい」と回答

という結果も報告されています。このデータからは、適切な指導を受けた上であれば、多くの患者さんや介護者が自宅でも安全に使用できる可能性が示されています。

通院が難しかった方にとって新たな選択肢になる可能性

訪問リハビリでは、一人暮らしや高齢夫婦世帯を担当することはよくあります。認知症の治療では、患者さんだけで通院することが難しく、家族の付き添いや送迎が必要になります。

現場でのエピソード 以前、独居の女性の利用者さんを担当した際、別居しているご家族が定期的に通院の付き添いをされていました。移動時間に加えて、診察や治療にかかる時間まで含めると半日仕事になり、そのたびにご家族が疲弊した様子を見せていたことが印象に残っています。

現場では、こうした「家族が遠方に住んでいる」「配偶者も高齢で送迎が難しい」「子どもが仕事を休めない」といった理由から、通院そのものが大きな負担になっているケースを目にすることがあります。

今回、対象が広がった皮下注射製剤は、患者本人や介護者が自宅で投与できることから、これまで通院が治療継続の障壁となっていた方にとって、新たな選択肢になる可能性があります。もちろん、治療の適応や投与方法は医師の判断が前提であり、すべての患者さんが対象になるわけではありません。それでも、通院できるかどうかが治療選択に影響していた方にとっては、新たな選択肢となる可能性があります。

カレンダーと時計が飾ってあるシンプルなイラスト

通院負担が減ることで、在宅生活の選択肢が広がる

認知症治療では、病院へ行くこと自体が患者さんや家族にとって負担になることがあります。移動、待ち時間、点滴、帰宅までを含めると、半日以上かかることも珍しくありません。

先述の利用者さんのケースのように、通院日になると家族の方が仕事や自分の生活を調整せざるを得ず、それが積み重なることで負担が大きくなっていく場面は、訪問リハビリの現場でしばしば見聞きします。皮下注射が普及すれば、こうした時間的・身体的負担が軽減されることが期待されます。

空いた時間をどう使うかは人それぞれです。家族と過ごす時間に充てる方もいれば、趣味や休息を優先する方もいるでしょう。その選択肢の一つとして、適度な運動や社会参加など、認知症の進行予防につながる生活習慣を取り入れることも考えられます。

WHOや2024年のLancet Commissionでは、運動不足や高血圧、糖尿病、社会的孤立などが認知症の修正可能な危険因子として挙げられており、薬物療法だけでなく生活習慣も重要であるとされています。

訪問リハビリスタッフとして感じること

もし日本で承認されたとしたら、私が期待しているのは、治療の負担が軽減することです。

訪問先では、「病院へ行くだけで疲れてしまう」「付き添う家族の負担が大きい」という声を耳にすることがあります。冒頭でご紹介した独居の利用者さんのように、家族が遠方から通院に付き添っているケースでは、通院そのものが家族の生活を圧迫してしまうことも少なくありません。

通院の負担が軽減されれば、患者さんやご家族の生活に少し余裕が生まれるかもしれません。その余裕が、外出や趣味、人との交流、適度な運動など、その人らしい生活を続けるきっかけにつながる可能性があります。

薬はあくまで生活を支える手段の一つです。その効果を最大限に生かすためには、医療だけでなく、リハビリや介護サービス、家族、地域社会が連携しながら支えていくことが重要だと感じています。

ブログのロゴのイラスト

まとめ

レカネマブ皮下注射製剤の対象拡大は、投与方法が変わったというだけでなく、通院負担を軽減し、治療へのアクセスを改善する可能性を持つ出来事です。

特に、一人暮らしや高齢夫婦世帯など、通院が負担となっていた方にとっては、新たな選択肢となることが期待されます。

一方で、今回の承認は米国での承認であり、日本では現在承認申請中です。国内での導入時期や運用方法は、今後の審査結果によって決まります。

今後、日本でも承認された場合には、患者さんやご家族が住み慣れた地域で、より自分らしい在宅生活を続けるための一助となるかもしれません。

参考資料:エーザイ株式会社 ニュースリリース(2026年7月14日)/Clarity AD試験(New England Journal of Medicine)/WHO「Guidelines on Risk Reduction of Cognitive Decline and Dementia」/Lancet Commission on Dementia Prevention, Intervention and Care(2024)/日本経済新聞 速報ニュース「エーザイ、米で自宅投与の認知症薬が承認 治療初期から使用可能に」(2026年7月14日)

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