【高齢者の引っ越し】訪問リハビリとして支援したこと

在宅リハビリ × 地域生活

引っ越し後に外出しなくなった患者さん
訪問リハビリが考える閉じこもりを防ぐ支援とは

alt="公営住宅の建物の外で、シルバーの車輪付き歩行器を使う高齢女性の左側に寄り添い、共に緑豊かな近くの公園へ向かって優しく歩いている、若い男性理学療法士の後ろ姿の水彩画"

訪問リハビリテーションの視点から

結論

高齢者にとって引っ越しは、単に住む場所が変わることだけではありません。住み慣れた家、毎日歩いていた道、顔なじみとの交流、買い物や散歩など、長年積み重ねてきた生活環境そのものが変化します。

厚生労働省は、閉じこもり(外出頻度の低下)をフレイルや要介護状態につながる重要な要因として位置づけています。また、日本老年医学会『フレイル診療ガイドライン2024』では、身体活動量の低下はサルコペニアや転倒、要介護化の危険因子であると示されています。

さらに、高齢者の生活範囲を評価するLife-Space Assessment(LSA)という指標があります。これはBakerらが2003年に開発した評価法で、自宅内だけでなく、自宅周辺、地域へどの程度外出できているかを0〜120点で数値化するものです。

日本人高齢者1万人以上を対象とした国内のコホート研究では、LSAが60点を下回ると死亡リスクが上昇し始めることが報告されています。つまり、訪問リハビリで重要なのは「歩けるかどうか」だけではなく、生活範囲(Life-Space)を維持できるかという視点です。

今回は実際に担当した利用者さんの事例をもとに、訪問リハビリだからこそできる支援をご紹介します。

実際にあった例

担当したのは80歳代女性
  • 自宅では伝え歩き
  • 屋外では歩行器を使用
  • 毎日のように近くの公園まで散歩
  • 公園で友人と会話を楽しむ

という生活を送っていました。しかし、公営住宅の建て替えに伴い、数km離れた住宅へ引っ越すことになりました。

引っ越し前

「家族に迷惑をかけて申し訳ない」「新しい家で生活できるだろうか」と話すことが増え、リハビリ中も笑顔が少なくなり、歩く距離や活動量が徐々に減少しました。

引っ越し後

身体機能に大きな変化はありませんでしたが、「外へ出るのが怖い」「どこへ行けばいいか分からない」と話し、自宅で過ごす時間が増え、ほとんど外出しない生活になってしまいました。

なぜ数kmの引っ越しで生活が変わるのか

健康な人からすると数kmはそれほど遠く感じないかもしれません。しかし、歩行器を使用して生活している方にとっては、自力では以前の公園や友人のもとへ行けなくなる距離です。

変わったのは住む場所だけではありません。毎日の散歩コース、買い物先、顔なじみとの交流、外出する目的、生活リズム。そのすべてが変化したのです。

引っ越し前から活動量は低下していた

引っ越しは当日の出来事ではありません。荷造りや手続き、新生活への不安などにより精神的負担が大きくなります。

この利用者さんも「家族に迷惑をかけて申し訳ない」という気持ちが強くなり、歩く距離が短くなり、椅子で過ごす時間が増えていました。身体機能が低下したのではなく、心理的負担が活動量を低下させていたと考えられました。

新しい環境への不安が「生活範囲」が狭くさせる可能性

LSAでは、自宅内だけで生活する状態は低得点となります。前述の通り、日本人高齢者を対象とした大規模なコホート研究では、LSAが60点を下回ると死亡リスクとの関連が見え始め、さらに53点を下回る場合には心血管疾患による死亡リスクが高まるという報告もあります。

また、日本語版LSAの妥当性を検証した研究(原田ら、日本老年医学会雑誌)でも、LSAは歩行能力、転倒歴、フレイル、社会参加と関連することが報告されています。

つまり、今回の利用者さんは筋力だけではなく、生活空間そのものが急激に縮小したことが問題だったと考えられます。

ライフスペースアセスメント(LSA)の概念を示したイラスト。自宅内、自宅周辺、近所、地域、町外へと生活範囲が広がる様子を同心円で表現し、高齢者の生活範囲や活動性を視覚的に説明している。

閉じこもりは健康寿命に影響する

日本老年学的評価研究(JAGES)
外出頻度が少ない高齢者ほど、要介護認定のリスクが高いことが報告されています。

Fried LPら(2001年)によるフレイルの評価
歩行速度低下、活動量低下、疲労感などが主要な評価項目とされています。

WHO「ICOPE(高齢者のための統合ケア)」
生活機能を維持するためには、住み慣れた地域で活動を継続することが重要とされています。

訪問リハビリで実際に行った支援

引っ越し後は室内歩行だけではなく、新しい地域で安心して生活できることを目標にしました。

まず一緒に地域を歩き、安全な歩道、横断歩道、ベンチ、公園、スーパー、コンビニを確認しました。その後、利用者さんと相談しながら、自宅・公園・スーパー・コンビニ・バス停をまとめた散歩コースマップを作成しました。

患者専用の散歩コースのマップのイラスト

実際に作成した散歩コースマップのイメージ

距離と所要時間の目安
自宅 → 公園 約200m(約3分)
公園→ スーパー 約350m(約5分)

すると、「今日は公園まで」「来週はスーパーまで」という目標ができ、少しずつ外出する習慣が戻ってきました。

訪問リハビリだからできること

訪問リハビリは、筋力を改善するだけではありません。生活の場で、どこへ行くのか、誰と会うのか、何を楽しみに生活するのかまで支援できます。

今回のような散歩コースマップは、身体機能だけでなく、生活空間(Life-Space)を広げる支援そのものだと考えています。

alt="静かな公園の緑豊かな木陰の下で、木製のベンチに腰掛けて穏やかにリラックスして休憩している高齢の日本人女性と、そのすぐ横に置かれたシルバーの車輪付き歩行器の水彩画"

まとめ

引っ越しは住む場所が変わるだけではありません。生活範囲、人とのつながり、毎日の楽しみを大きく変える出来事です。

今回の利用者さんでは、身体能力は大きく変わらなかったにもかかわらず、環境の変化によって外出が減り、生活空間が狭くなっていました。

だからこそ訪問リハビリでは、「歩けるようにする」だけではなく、新しい地域でも安心して暮らせる生活を一緒につくることが重要になります。

散歩コースマップを活用しながら生活範囲を少しずつ広げていくことは、閉じこもり予防だけでなく、その人らしい生活を取り戻す第一歩になります。

参考文献:厚生労働省「健康日本21(第三次)」/厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施」/日本老年医学会『フレイル診療ガイドライン2024』/日本老年学的評価研究(JAGES)外出頻度と要介護リスクに関する研究/Baker PS, Bodner EV, Allman RM. Measuring Life-Space Mobility in Community-Dwelling Older Adults. J Am Geriatr Soc. 2003./Peel C, Baker PS, Roth DL, et al. Assessing Mobility in Older Adults: The UAB Study of Aging Life-Space Assessment. Phys Ther. 2005./原田和宏ら「日本語版Life-Space Assessmentの信頼性・妥当性に関する研究」日本老年医学会雑誌/日本人高齢者を対象としたLSAと死亡リスクに関するコホート研究(Watanabeら)/Fried LP, et al. Frailty in Older Adults: Evidence for a Phenotype. J Gerontol A. 2001./World Health Organization. Integrated Care for Older People (ICOPE). 2019.

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