【高齢者の不眠】訪問リハビリで実践する睡眠改善/日中の過ごし方と筋力トレーニングの効果
【高齢者の不眠】訪問リハビリで実践する睡眠改善
日中の過ごし方と筋力トレーニングの効果
はじめに
「夜中に3〜4回トイレで起きてしまう。」
「昼間は特にすることがなく、布団で横になっている。」
「睡眠薬はできれば飲みたくない。でも飲まないと眠れない。」
訪問リハビリをしていると、このような相談を受けることは少なくありません。
80歳を超えると睡眠時間は大きく変わらない一方で、「夜中に何度も目が覚める」「朝早く目が覚める」など、睡眠の質は低下しやすくなります。また、日本人高齢者では睡眠に何らかの悩みを抱える人は約3〜4割いると報告されています。
そのため重要なのは、【長く眠ること】ではなく、【日中にしっかり活動し、夜に自然な眠気が訪れる生活リズムを整えること】です。
2026年7月20日付の日本経済新聞では、フランスベッドの睡眠市場に関する記事が掲載されました。業界関係者からは「眠れていないことは分かっても、改善策まで示せなければ意味がない」といった指摘もあり、測定だけではなく、実際の生活改善がいかに重要かを示唆しています。
訪問リハビリでも同じです。睡眠を評価するだけではなく、【日中の生活を整え、夜に眠れるリズムをつくること】が重要になります。
今回は、実際に担当した利用者さんへの支援と最新の研究を交えながら、訪問リハビリで実践している睡眠改善についてご紹介します。
1.睡眠改善で大切なのは【日中の過ごし方】
実際に担当した利用者さんから、このようなお話を伺うことがあります。
「夜中に3〜4回トイレに起きます。」
「昼間は何となく布団に横になっています。」
「眠剤は飲みたくないけど、飲まないと眠れません。」
生活状況を確認すると、以下のような共通点があります。
- 日中座って起きている時間が短い
- ベッドや布団で過ごす時間が長い
- 外へ出る機会が少ない
訪問リハビリで最初に行うこと
訪問リハビリでは、まず睡眠だけを見るのではなく、生活全体を確認します。例えば、以下の項目を詳しく聞き取ります。
- 就寝時間
- 起床時間
- 実際の睡眠時間
- 夜中に何回起きるか
- トイレの回数
- 昼寝時間
- 日中どこで過ごしているか
大切なのは、【眠れない】という結果だけを見るのではなく、【なぜ眠れない生活になっているのか】を一緒に考えることです。
2.日中の離床時間を増やす
訪問すると、朝食後から夕方まで布団の上で過ごされている方は少なくありません。そこで私たちは、その方の生活に合わせて離床を提案しています。
例えば、以下のような提案をします。
- 「テレビは椅子で見ましょう。」
- 「新聞はダイニングテーブルで読みましょう。」
- 「久しぶりに新聞スクラップを作ってみませんか?」
移動が難しい方では、「車椅子に座って安全に過ごす時間を作るのも良いですよ。」と提案することもあります。
【ベッド=寝る場所】という条件付けの重要性
ポイントは、【ベッド=寝る場所】と身体に覚えてもらうことです。これは、不眠症治療で推奨されている刺激制御療法(Stimulus Control Therapy)の考え方を参考にしています。
ベッドの上で長時間テレビを見たり、日中も横になって過ごす習慣が続くと、【ベッド=起きている場所】と脳が学習してしまいます。
反対に、日中は椅子で過ごし、夜だけベッドへ入る生活を続けることで、眠気が起こりやすい環境を整えることができるのです。
3.運動は散歩より筋力トレーニング?
以前は、「眠れないなら散歩しましょう。」と言われることが多くありました。しかし、2025年にBahalayodhinらが発表したネットワークメタアナリシスによって、新たな知見が示されています。
研究データから見える筋力トレーニングの効果
60歳以上の2,170名を対象とした25件のランダム化比較試験をネットワークメタアナリシスで統合した結果、最も睡眠改善効果が高かったのは筋力トレーニングでした。
PSQI(ピッツバーグ睡眠質問票)の改善量は以下の通りです。
| 筋力トレーニング | −5.75点 |
| 有酸素運動 | −3.76点 |
| 複合運動(有酸素と筋力の組み合わせ) | −2.54点 |
ネットワーク解析での効果順位スコア(SUCRA)では、筋力トレーニングが94.6%で第1位と評価されました。
つまり、散歩も睡眠改善には有効ですが、筋力トレーニングの方がより高い効果を示す可能性が科学的に示されたのです。
訪問リハビリで紹介している筋力トレーニング
実際に紹介している運動は激しいものではありません。例えば、以下のようなものです。
- 椅子からの立ち上がり
- かかと上げ
- 膝伸ばし
- 足踏み運動
訪問リハビリでは、30分の散歩が難しい利用者さんも少なくありません。そのため、自宅で安全に継続できる筋力トレーニングを中心に紹介しています。もちろん、膝や腰の痛み、心疾患などがある場合には内容を調整し、無理のない範囲で実施しています。
4.睡眠薬だけでは解決しないこともある
睡眠薬は重要な治療法です。一方で、高齢者では以下のような副作用に注意が必要です。
- 転倒
- ふらつき
- 日中の眠気
そのため、日本睡眠学会やAmerican Academy of Sleep Medicine(AASM)の診療ガイドラインでは、【認知行動療法(CBT-I)】が慢性不眠症の第一選択として推奨されています。
訪問リハビリで行っている以下の取り組みは、認知行動療法の考え方とも共通しています。
- 日中の離床
- 活動量アップ
- 運動療法
- 声掛けや生活習慣の提案
大きく改善しなくても【悪化を防ぐ】ことが大切
正直に言うと、数週間で睡眠が劇的に改善するケースは多くありません。しかし、以下のような変化は日々の訪問の中でよく経験します。
- 昼間起きている時間が増えた
- 活動量が維持されている
- 生活リズムが崩れにくくなった
私自身は、【ぐっすり眠れるようになった】という結果だけではなく、【昼間起きていられる時間が増えた】【生活リズムが維持できている】ということも、大切な成果だと考えています。
変化を見逃さない—他職種連携の重要性
一方で、以下のような変化が見られた場合は、医師・ケアマネジャー・ご家族へ早めに情報共有しています。
- 睡眠時間が急に短くなった
- 昼夜逆転が始まった
- 夜間せん妄が疑われる
こうした他職種連携も、訪問リハビリの重要な役割です。
まとめ
睡眠改善というと、睡眠薬やマットレスに注目が集まりがちです。しかし今回紹介した研究では、【日中の活動量】、特に【筋力トレーニング】や【離床時間の確保】が睡眠改善に重要である可能性が示されました。
訪問リハビリは、【歩けるようにする】だけではありません。その人の生活全体を見つめ、日中の過ごし方を整え、夜に自然と眠れる生活リズムを一緒につくることも大切な役割です。
大きな改善が難しい場合でも、【生活リズムの悪化を予防し、異変があれば早期に他職種へつなぐ】。その積み重ねが、利用者さんが住み慣れた自宅で安心して暮らし続けることにつながると考えています。



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