「救急車の有料化の賛否」 医師9割賛成の裏で、在宅現場が見ていること

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「救急車の有料化の賛否」
医師9割賛成の裏で、在宅現場が見ていること

訪問リハビリテーションの視点から

はじめに

救急車の有料化をめぐる議論が、また活発になっています。日経メディカルが2026年に会員医師を対象に行った調査で、医師の約9割が有料化に賛成という結果が出たことが話題になりました。

出典:日経速報ニュース「救急車の有料化、医師の9割が賛成 負担や体制のあり方が論点に」2026/07/05

インパクトのある数字ですが、訪問リハビリテーションとして日々利用者・家族と接している立場からは、この議論だけでは見えてこない部分があると感じます。今回は、記事の内容を踏まえつつ、在宅現場で実際に起きていることを共有したいと思います。

この記事でわかること

上記の日経メディカルの調査(回答数7,715人、調査期間2026年1月26日〜2月1日、回答者の内訳は病院勤務医70.9%、診療所勤務医14.6%、開業医11.4%など)では、救急外来を受診したものの緊急性が認められなかった場合に「選定療養」として特別の料金(多くの自治体で1万円弱)を徴収する仕組みについて、賛成・反対それぞれの立場から医師の意見が紹介されていました。

賛成派の主張は、主に救急外来の診療報酬が長年低く抑えられてきたことへの是正を求める内容でした。24時間体制を敷きながら診療報酬上の評価が乏しく、医療機関の経営を圧迫してきたという構造的な問題が背景にあります。

反対派の主張は、救急搬送される患者の約3分の2が高齢者で、そのうち75歳以上が約4割を占めるという数字を踏まえ、経済的負担が救急要請そのものをためらわせるリスクを懸念する内容でした。有料化の前に、救急相談窓口♯7119の整備や、AIを活用したトリアージの効率化を先に進めるべきだという意見が示されていました。

1. 医師9割賛成の意味とは

まず押さえておきたいのは、この「9割賛成」という数字の意味です。記事の中でも、これは医師が軽症患者の受診を制限したいという話ではなく、長年の過重労働と低い報酬に対する現場の悲鳴として受け取るべきだと指摘されています。

救急外来は、通常の一般外来と比べて診療報酬上の評価にほとんど差がないまま、24時間体制の維持だけが求められてきました。当直という過酷な対応を強いられてきた側面が大きく、そのしわ寄せが医師の負担として蓄積してきたことは、医療・介護に関わる者として理解しておくべき背景だと思います。

2026年度の診療報酬改定では救急搬送の受け入れや救急外来の運営を評価する見直しが行われ、地域の拠点病院では経営環境の改善が期待されているとのことです。ただ、この賛成の背後にある課題を患者側のモラルの問題だけではないと思います。有料化という手段だけが独り歩きしてしまうと、在宅で暮らす高齢者や家族にとっては、単なる負担増としか映らない危険性があります。

2. 現場で見えてくる実際――救急車を呼ぶのは「本人」より「家族」

ここが、医師向けの調査だけでは見えてこない部分です。在宅の現場で実際に救急要請の場面に立ち会うと、救急車を呼ぶという判断をするのは、本人ではなく家族であることが圧倒的に多いという思います。

数値で見る 実際、救急白書によると、救急要請の約45〜55%は家族や同居人であり、本人による通報も約25〜35%と全体の3割近くを占めています。

本人は「大丈夫」「様子を見たい」と言っていても、夜間に急変の兆候が見られた際、そばにいる家族が不安に耐えきれず要請するケースは非常に多く見られます。特に独居ではなく同居家族がいる世帯でも、家族自身に医療的な判断力がないため、軽症か重症かを見極める術がなく、結果的に「念のため」の要請が積み重なっていきます。

記事では搬送される患者の約3分の2が高齢者で、うち75歳以上が約4割という数字が示され、独居高齢者は搬送遅れが重症化につながりやすいと指摘されています。この構造を踏まえると、有料化による抑制効果は、本人よりもむしろ判断を迫られる家族に心理的な負荷としてのしかかることになります。経済的負担で救急要請をためらわせるリスクは、実際には要請する側である家族の負担としても現れてくると思います。

3. ♯7119は知られているか――整備より先に立ちはだかる周知の壁

記事の反対意見の中で、救急相談窓口♯7119や小児救急電話相談♯8000の整備推進が提言されていました。方向性としては非常に重要な指摘だと感じます。

ただ、現場で感じるのは、制度の整備以前に利用者や家族がその窓口の存在自体を知らないということです。緊急時ほど、パニックになり、とにかく119という反射的な行動に至りやすいと思います。

記事でも、運用している地域であっても、全ての問い合わせに対応できていないことや、AIを活用した症状・口調によるトリアージでカバー率を上げる余地があることが触れられています。この周知不足を埋めるためには、窓口の整備拡充と並行して、在宅サービスに関わる専門職側からの継続的な情報提供が欠かせないと感じます。訪問リハビリの場面で家族に声をかける、といった地道な関わりが結果として不要な救急要請を減らすことにつながるのではないでしょうか。

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まとめ――在宅現場でできること

救急車の有料化をめぐる議論は、医師側の負担軽減という切実な背景がある一方で、在宅で暮らす高齢者とその家族にとっては、経済的負担以上に判断すること自体への不安という別の課題が存在します。

在宅現場に立つ立場からできることは、有料化の是非を論じることそのものよりも、家族が救急要請の判断に迷わないための土台を日頃から作っておくことだと感じています。具体的には、♯7119などの相談窓口の周知の継続、そして日常のモニタリングを通じた早期の状態把握です。

制度設計の議論と並行して、在宅の現場でできる小さな備えを積み重ねていくことが、結果的に救急医療の逼迫を和らげることにもつながるのではないかと思います。

本記事は日経速報ニュース「救急車の有料化、医師の9割が賛成 負担や体制のあり方が論点に」(2026年7月5日)で報じられた内容を参考に、筆者の在宅現場での経験を交えて執筆したものです。

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